――局部腐食を見逃さない検査の考え方
化学プラントの配管管理では、超音波肉厚測定を定期的に実施している事業所も多いと思います。
そのため、
「毎年肉厚を測っているから大丈夫」
「前回も必要肉厚以上だったから問題ない」
と判断しているケースも少なくありません。
ところが、実際には定期的に肉厚測定を実施していたにもかかわらず、別の場所から腐食漏えいすることがあります。
なぜでしょうか。
その理由の一つが、局部腐食に対して、定点肉厚測定だけで管理しようとしていることです。
局部腐食では「測った場所が健全」でも安心できない
腐食には、大きく分けて全面腐食と局部腐食があります。
全面腐食は、比較的広い範囲が均一に減肉するため、代表点の肉厚を測定することで腐食傾向を把握しやすい損傷です。
一方、局部腐食は違います。
局部腐食では、腐食する場所が局所的に固定され、特定箇所だけが深く減肉します。
つまり、
肉厚測定点から数cm離れた場所で、著しい減肉が進行している可能性がある
ということです。
このため、局部腐食に対して定点肉厚測定だけを繰り返しても、最も薄くなっている場所を測定できている保証はありません。
肉厚測定の目的を間違えていないか
現場で肉厚測定を行うと、
「前回3.8mm、今回は3.7mmだから腐食速度は小さい」
といった評価をすることがあります。
もちろん、測定値の経年変化は重要な情報です。
しかし局部腐食の場合、それより先に確認すべきことがあります。
それは、
「そもそも、その測定場所が最も減肉している場所なのか?」
ということです。
局部腐食の検査で本当に必要なのは、単に決められた測定点の数値を取ることではありません。
最小肉厚部を探し出すこと
です。
ここを間違えると、毎回きれいな肉厚データが蓄積されているにもかかわらず、実際の最小肉厚部を一度も測定していない、ということが起こります。
実際にあった「検査していたのに漏れた」事例
以下は実際にあったCUI(保温下外面腐食)の事例です。
この設備では、運転開始から26年目に最小肉厚3.5mmが記録され、その後も同じ場所を中心に肉厚測定が継続されました。
37年目の測定値は3.3mm。
記録だけを見ると、急激な減肉は見られません。
ところが運転41年目に、別の場所で破孔漏えいが発生しました。
漏えい箇所には、目視でも分かるほどの明らかな「くびれ」がありました。
しかし、その場所は肉厚測定されていませんでした。
この事例から得られる教訓は非常に重要です。
前回の測定点を、そのまま次回も測ることが検査ではない
ということです。
前回記録の踏襲が「思い込み」になる
定期検査では、前回検査記録を確認して、
「前回ここを測っているから、今回もここを測ろう」
となりがちです。
これは作業効率の面では合理的です。
しかし、経年設備では腐食位置や腐食状態が変化する可能性があります。
特に外面腐食やCUI(保温材下腐食)は局部腐食であり、どこに最大減肉が発生するかを正確に予測することは容易ではありません。
したがって、過去の測定点は重要な参考情報ではありますが、
毎回ゼロベースで外観を確認し、最も腐食している場所を探す
という姿勢が必要です。
前回記録が充実しているほど、
「ここを見ておけばよい」
という思い込みにつながることがあります。
経年設備の検査では、この思い込みが一つのリスクになります。
目視検査を軽視してはいけない
非破壊検査というと、超音波探傷や放射線透過試験などの高度な検査技術に目が向きがちです。
しかし、目視可能な外面腐食の場合、まず重要なのは目視検査です。
基本的な考え方は、
Step1:目視で減肉の有無と分布を確認する
Step2:腐食部をデプスゲージや超音波肉厚計で定量化する
という順序です。
つまり、超音波肉厚測定器は、
「腐食場所を探す道具」というより、「見つけた腐食部の残肉厚を測る道具」
として使う方が適しているケースがあります。
最初から決められた測定点に探触子を当てるだけでは、局部腐食の最大減肉部を見逃す可能性があります。
目視できない場所はどうするか
もちろん、小径配管内部やタンク底板裏面、保温材下など、直接目視できない場所もあります。
こうした場所では、
広い範囲をスクリーニングできる検査技術
を組み合わせることが重要です。
例えば、
- 多チャンネル超音波探傷
- 低周波電磁誘導法
- ロングレンジガイド波超音波探傷
などがあります。
これらで広範囲をスクリーニングし、異常が疑われる場所を従来の超音波肉厚測定で詳細確認する。
このように、
スクリーニング検査+詳細検査
という考え方を取り入れることで、局部腐食の見逃しリスクを下げることができます。
CUIでは特に「代表点管理」が危険
CUI(Corrosion Under Insulation:保温材下腐食)は、配管保全の中でも特に管理が難しい損傷です。
その理由として、
- 保温材に覆われ、腐食状態を直接確認できない
- 局部腐食である
- 水分の侵入状態が場所によって異なる
- 温度条件も配管位置によって異なる
- 経年後に腐食が顕在化する場合がある
といった特徴があります。
そのため、
「100mある配管のうち、代表して数か所だけ保温を剥がして確認する」
という方法では、著しい腐食箇所を外す可能性があります。
特に漏えい時の影響が大きい高リスク配管では、
「代表箇所を見る」のではなく、「重大な腐食箇所を確実に抽出する」
という検査思想が必要です。
検査結果の数字だけを見ない
設備保全担当者として気を付けたいのは、
「肉厚○mm」
という数字だけで設備状態を判断しないことです。
例えば超音波肉厚測定の場合、
- 狭隘部で探触子が入らない
- 表面の凹凸が激しい
- 腐食部が点在している
- 本当の最小肉厚位置を特定できていない
といった場合があります。
このような条件では、測定された最小肉厚値を、
「設備全体の最小肉厚を保証する値」
として扱うことは危険です。
測定条件によっては、「参考値」として扱う判断も必要になります。
重要なのは測定値そのものだけではなく、
その測定値が何を代表しているのか
を理解することです。
まとめ
局部腐食を管理するうえで最も重要なのは、
「肉厚を測ること」ではなく、「最も減肉している場所を見つけること」
です。
定期的に肉厚測定を実施していても、
- 毎回同じ測定点だけを測っている
- 目視確認を十分に行っていない
- 局部腐食なのに代表点管理をしている
- 最小肉厚部を測定できている保証がない
という状態では、腐食漏えいを防げない可能性があります。
一度、自社の肉厚測定記録を見返してみてください。
そこに並んでいる測定値は、
「決められた位置の肉厚」でしょうか。
それとも、
「その設備で最も減肉している場所の肉厚」でしょうか。
この二つは、似ているようで全く意味が違います。
「毎年肉厚測定をしているのに腐食漏えいがなくならない」
「CUIをどこまで検査すればよいか決められない」
「検査点数を増やさずに見逃しリスクを下げたい」
といった課題がある場合は、測定点数を増やす前に、想定する腐食メカニズムと現在の検査方法が合っているかを一度整理してみることをおすすめします。
検査は、実施することが目的ではありません。
見つけるべき損傷を、見つけられる検査になっているか。
そこが設備信頼性を左右します。

